しかし、全ての被差別者の連帯が容易ではないことを上野千鶴子は「複合差別論(*1)」で説明しています。
以下、簡単にまとめました。
被差別者が連帯することの難しさ
被差別者同士が協力して差別を根絶しよう!
このような目標が掲げられることがありますが、現実はそう簡単ではないようです。
本来味方であるはずの集団の内部で、さらに差別に優先順位がつけられてしまうことがあります。
実際に、沖縄の米兵による強姦事件をきっかけとした米軍基地反対闘争の中、男性の活動家が「基地問題を女性問題に矮小化するな」と発言し、女性参加者の怒りを買ったという事例が「複合差別論」に書かれています。
最近では、10年ほど前に行われた反貧困のデモにおいて、女性が「一人でも生きていける賃金を!」とコールを上げる中、男性参加者たちは「結婚できるだけの賃金をよこせ!」と叫んでいたというtweetが話題になりました。
リベラルや左派を自認している人の中であってもセクシズムが蔓延していることは珍しくないようです。
差別の複数性 複合差別とは何か
差別にはその複数性によって、単相差別、重層差別、複合差別に分けられると上野は述べています。単層差別とは差別の次元が単一のものを指します。
現実にはこのケースは滅多にありません。
重層差別は多元差別とも呼ばれ、複数の次元の差別を重層化し、蓄積している状態です。
そして複合差別は、多元差別のうち、差別相互の関係にねじれや逆転があるものを指します。
●複合差別
複数の差別が、それを成り立たせる複数の文脈の中でねじれたり、葛藤したり、一つの差別が他の差別を強化したり、補償したり、という複雑な関係にある
引用:差別と共生の社会学 複合差別論 p204
複数の差別が、それを成り立たせる複数の文脈の中でねじれたり、葛藤したり、一つの差別が他の差別を強化したり、補償したり、という複雑な関係にある
引用:差別と共生の社会学 複合差別論 p204
差別の要因は、性別・民族・皮膚の色・国籍・言語・宗教・職業・出自・障がい・病・性的指向・年齢・在留資格など多数存在組み合わせや対象も多様で、相互に影響し複雑に関係しています。
被差別者の中での性差別の例
例えば、被差別者の中で性差別を問題化することは非常に困難です。その理由として、この3つが挙げられています。
①差別の間に、相対的強者による政治的な優先順位がつけられること
②社会的弱者としての活動中に集団内の差別を言い立てることは運動を分裂させる利敵行為とみなされること
③最優先課題が設定されると、その目標達成のために自己犠牲が要求され、その中であからさまな差別が行われてしまうことがあること
すべての被差別者の連帯を強調することは、むしろそこにある差別を隠蔽してしまう可能性があると上野は指摘しています。
まとめ
今回参考にした「複合差別論」は1996年に出版されたものなので現在の議論はより発展していると思いますが、基本としてまとめました。この記事はかなり簡略化してあるので、本来の趣旨を知りたい方はぜひ読んでみてください。
【参考】
*1:現代社会学15差別と共生の社会学 複合差別論 上野千鶴子
ではまた♪