話題の漫画「やすお」を読んでみた感想

 Twitterで話題の漫画「やすお」(吉田博嗣)を読んでみました。

以下のリンクから読めます。

【読み切り】やすお



かなり表面的な感想※ネタバレあります

この物語の舞台は、平均的だと認定された人間がお手伝いロボット「やすお」「はなこ」にされてしまう世界。
主人公・愛子は本来は「はなこ」にされていたはずの平均的な能力の女性です。

愛子はそれを知っているがゆえに、自分が「やすお」よりも優れた人間であるという自己像を守るため、「やすお」に対して粗暴な態度をとってしまいます。

そういった弱い部分を自覚、内省して自己嫌悪に陥っています。
その一方で、他の誰かが犠牲になったとしてもやはり自分が「はなこ」にならなくてよかった、という安堵の気持ちもあるようです。

自覚的な弱さと身勝手さが併存しているというのはとても人間的だな、と思いました。

誰かを見下すことでしか自身の優位性を示せない、わかっていてもそれをやめることができない人間の素朴な恐ろしさを表現できている作品だと思います。

これはディストピアか?ただの「日本の主婦像」では

ただ、かなり不満も残ります。
まず、この「やすお」の位置づけです。
これはTwitterで「ディストピアSF」だと紹介されていたのですが、実際はただの「保守的な家庭」だと思います。

かつての日本では「女は殴ってしつけろ」と言って憚らない人がたくさんいました。
家父長制の元では女は男の所有物であり、家事、育児、その他雑用は女の仕事、それができなければ殴っても構わないと。

そのようなことを公言する人は減っている気がしますが、今でもそういう価値観を持っている人は大勢いるでしょう。
DVもまだまだ存在します。

それを踏まえると「やすお」はただの「日本の主婦」です。
「日本の主婦」は「やすお」のような人権を剥奪された奴隷だと言いたいのでしょうか?

私はそこがこの物語のテーマになっているようには思えませんでした。

男女逆転させることでこの問題を隠しているように見える

「主婦=奴隷」という図式を問題視した作品だとは思えなかったのは、性別が典型的なパターンと逆だからというのが大きいです。

もちろん例外もありますが、現実には主=男性、従=女性となっているケースが多いでしょう。
しかしこの物語では逆に、主=愛子(女性)、従=「やすお」(男性)です。

まず、「あえて」そうした可能性を考えてみます。
つまり性別を逆転させ、ミラーリングを試みた可能性です。
家事ロボットを男性にしたことで、(読者である)男性にも「従順な主夫=奴隷」という図式が分かりやすくなるかもしれません。

ですが、「ディストピアSF」という触れ込みがあることから、「異世界もの」として読んでいる人も多く、この試みはあまり成功していないように見受けられます。

また、最終的に愛子の「保身的な黒い感情」で物語を回収するあたり、「女性の怖さ」の方が印象に残る構成だったと思います。

そのため、狙ってミラーリングしたとは考えにくい気がします。

さらに、「単純労働、家庭内の雑用は誰にでもできる」のような家庭内労働を軽んじる偏見をベースにしているのも気になります。
現時点の社会でそう「みなされている」のは分かるのですが、もし問題提起した作品ならばそこに少しは疑問符をつけた方が分かりやすいと思うのです。

その結果、主婦=奴隷の構造にちょっと触れてはいるものの、(私の読み取りが不十分なだけかもしれませんが)解像度が低い印象を受けました。

どこまで「狙って」いるのか疑問な作品だと思います。
(もうちょっと考えて整理すればもっと違う感想になるかも…)