月と六ペンス 芸術家の業と苦悩を描いたエネルギーのある作品

サマセット・モームの「月と六ペンス」を読みました。


月と六ペンス あらすじ

平凡な中年の株屋ストリックランドは、妻子を捨ててパリへ出、芸術的創造欲のために友人の愛妻を奪ったあげく、女を自殺させ、タヒチに逃れる。ここで彼は土地の女と同棲し、宿病と闘いながら人間の魂を根底からゆすぶる壮麗な大壁画を完成したのち、火を放つ。ゴーギャンの伝記に暗示を得て、芸術にとりつかれた天才の苦悩を描き、人間の通俗性の奥にある不可解性を追究した力作。
引用」新潮文庫「月と六ペンス」より

月と六ペンスはそれぞれ何を意味するのか

月と六ペンスはそれぞれ小説の内容では触れられていません。
何を意味するのかについて、解説に記述がありました。

「月」は、人間をある意味での狂気に導く芸術的創造情熱を指すものであり、「六ペンス」はストリックランドが弊履のごとくかなぐり捨てた、くだらない世俗的因襲、絆等を指したものであるらしい。
新潮文庫「月と六ペンス」訳者・中野好夫氏による解説より
月も6ペンスコインも銀色の円。
絶対に手が届くことはなく、上空から私たちを照らす月と、手にいれることも、そして捨てることも出来る6ペンス。
象徴的ですね。

私の好きな文章

運命論のようなものが各所にでてきて、なんだかドラマチック(悪い言い方だとキザ?)な印象を受けます。
私はこの文章が好きです。

人間の中には、ちゃんとはじめから決められた故郷以外の場所に生まれてくるものがあると、そんなふうに僕は考えている。なにかの拍子に、まるで別の環境の中へ送り出されることになったのだが、彼らはたえず、まだ知らぬ故郷に対してノスタルジアを感じている。生まれた土地ではかえって旅人であり、幼い日から見慣れた青葉の小道も、かつては嬉々として戯れた雑踏の街並みも、彼らにとっては旅の宿りにすぎないのだ。肉親の間においてすら、一生冷たい他人の心をもって終始するかもしれないし、また彼らが実際知っている唯一のものであるはずの風物に対してすら、ついに親しみを感ぜずじまいで終わってしまうという場合もある。

ストーリーには直接関係ない文章なのですが、とても印象的でした。

人生には抗えない不思議な力が働いている。
大きな運命の中に私たちは生きている。
そういったことを感じさせてくれる浮遊感のあるきれいな文章だと思います。

月と六ペンス感想 エネルギーを感じる小説

創作への情熱、芸術家の業のようなものが迫ってくる小説です。

「描きたい」「描ける」のではなく、「描かずにはいられない」「表現せずにいられない」のです。
「才能を与えられた側の人間」の苦悩を感じます。

そしてストリックランドの芸術に対する執念のようなものが、本人だけでなく周囲の人の人生を狂わせていきます。
ストリックランドという人のエネルギーとともに、抗えない運命の強さを感じる作品です。

ただ、(時代もあるからある程度仕方ないですが)女性の扱いは差別的です。
随所に女を小ばかにした表現が出てきます。
読む方は注意してください。

※下記リンクの商品の訳者は厨川圭子氏です