性犯罪に無関係な人はいない 第三者の役割を考える

性犯罪が起こったとき、被害者の責任を問う人がいます。
「加害者は悪い。でも被害者も…」と被害者の落ち度を指摘するのです。

被害者を責める声は、それ自体に悪い影響があるといわれています。

犯罪の発生の3要因 ルーティンアクティビティセオリーより

その影響を説明するため、犯罪に関する理論「ルーティンアクティビティセオリー」をご紹介します。

「ルーティンアクティビティセオリー」とは簡単に言うと
①犯意ある行為者
②ターゲット
③監視者の不存在
の3つが同じ時間や空間に揃った時に犯罪が起こる
というものです。

犯罪の発生において、「①犯意ある行為者=加害者」と「②ターゲット=被害者」が同じ空間にいることが条件になるというのは自明です。
この記事では③監視者の不存在について考えていきます。

「監視者の不存在」が犯罪発生に大きく関わる

監視者の不存在とはそのまま「見張っている人がいない」ということを指します。

例えば、交番の前で犯罪をする人はいないでしょう。
また、犯罪者たちは、監視カメラがある場所でも犯行を控えようとするはずです。

このように、犯罪の発生には「見張られていない」という状況が前提になっています。
より正確に言うと、「犯人が見張られていないと”思い込むこと”」が犯罪の発生に関わっているということです。

ではなぜ、痴漢は第三者がいる空間で起こるのか

ここで、電車の中で起こる痴漢について考えてみましょう。
電車内ではたくさんの乗客がいるにもかかわらず、痴漢をする人がいます。

乗客が「監視者」の役割を果たしていれば、加害者は犯行を控えると考えられますが、現実にはそうなっていません。

女装で痴漢にあうのか検証してみた
(こちらは女装した男性が痴漢に遭うかどうかを検証した動画ですが、一日で2回痴漢被害に遭っています。多くの女性の体感と一致する結果だと思います。)

たくさんの人がいるにもかかわらず、乗客が「監視者」にならないのはなぜなのでしょうか。

加害者は乗客が「監視者」だと思っていない

他者がいる状況で痴漢行為が行われるということは、加害者は「周囲の人に痴漢をとがめられることを想定していない」ものと考えられます。

それはやはり、被害者を責める声が多いことが関係しているように思うのです。

ネット上でも現実場面でも、
「触られたぐらいで騒ぐな」
「冤罪もある」
と言う人がたくさん存在しています。
(筆者の個人的感覚では、男性の大多数はこのようなことを言うイメージです)

このような意見は加害者にとって
「他の人は自分の味方だ」
という感覚を抱かせるでしょう。

被害者を非難する意見をたくさん見聞きしている加害者は「この社会には味方がたくさんいる」という感覚を(無意識であっても)持つことが予想されます。
そのため、他の乗客が痴漢を咎める「監視者」になりうる可能性を低く見積もっており、他者の存在が痴漢の抑止につながらないのだと考えられます。

被害者への非難は間接的に加害者を援護している

つまり、被害者を非難することは、間接的に加害者を擁護しているのと同じです。

一方で、
被害者の落ち度を指摘するのは客観的な意見。
加害者を庇っているつもりはない!
という人もいるかもしれません。

でも考えてみてください。

あなたが人を殴りました。
被害者が「殴るな!」と声をあげます。
すると関係のない通行人が
「殴るのは確かに悪い。しかし殴られるような場所にいるお前も悪い」
と被害者を諭していたらどうでしょう。
かばわれていると思いませんか?

被害者を非難する人に加害者を擁護する「意図」があるとは限りません。
むしろ中立の立場をとっている「つもり」でしょう。
しかし、外形的には「加害者を擁護してしまっている」のです。

さらに言うならば、「加害者を後ろから援護している」と言っていいかもしれません。
加害者が「性犯罪など大した問題ではない」「自分は悪くない」と思い込む材料を第三者が提供しているのですから。

第三者がすべき性犯罪対策

では、第三者はどうすればいいのでしょうか。

私はこの二つを提案します。
・加害者「だけ」を責める
・実際の監視者になる

加害者だけを責める

被害者の落ち度を責めず、加害者だけを責めること
これが第三者ができる最低限の性犯罪対策です。

中には、
そうは言っても被害者に自衛を説くのも大事だろ!
という人もいるでしょう。

しかし実際、多くの人はできる範囲で自衛しています。
当事者でない人がすぐに思いつく方法など、大して役には立ちません。

性犯罪に遭う前に自衛を啓蒙することは一定の効果があると思いますが、性犯罪に遭った人に自衛を説くのは、被害者を責めるだけです。
後からの「高みの見物」には害しかありません。

実際に監視者となること

そして実際に監視者になることも大切です。
例えば、今はこのようなアプリがあります。

Don't Worry - 痴漢抑止アプリ








これをインストールするのも一つの手です。
また、「これをインストールしている」とSNSなどでつぶやくのもいいでしょう。
「痴漢を許さない人が存在している」ことを加害者に示すことができます。
一人一人の声が集まれば、社会全体の空気が変わるはずです。

まとめ

第三者を「犯罪の監視者」として犯人に認識させるには、「この社会は性犯罪を許さない」というメッセージを発し続けることが必要です。
そして、加害者を「だけ」を責めないことが、加害者の立場を有利に「してしまう」ということを私たちは自覚しなければなりません。