性犯罪の裁判での無罪判決…これは法律の不備では

19歳の実の娘と性交したとして準強制性交の罪に問われた父親の裁判で無罪判決が言い渡されました。

事件に関する報道

この事件に関してのニュースを引用します。
“娘と性交”父親が無罪の理由 抵抗可能だった?
検察側は「中学2年生のころから性的虐待を受け続け、専門学校の学費を負担させていた負い目から心理的に抵抗できない状態にあった」と主張。弁護側は「同意があり、抵抗可能だった」と反論。名古屋地裁岡崎支部は、同意については「性交は意に反するもので、抵抗する意志や意欲を奪われた状態だった」と娘の同意はなかったと認定しました。
しかし、抵抗できる状態であったかについては「以前に性交を拒んだ際に受けた暴力は恐怖心を抱くようなものではなく、暴力を恐れて拒めなかったとは認められない」と指摘。抵抗を続けて拒んだり、弟らの協力で回避したりした経験もあったとして、「従わざるを得ないような強い支配、従属関係にあったとまでは言い難い」と判断。「被害者が抵抗不能な状態だったと認定することはできない」として、無罪判決を言い渡しました。
引用:yahooニュース

裁判所は「同意はなかった」と認めながら、「以前に性交を拒んだ際に受けた暴力は恐怖心を抱くようなものではなく、暴力を恐れて拒めなかったとは認められない」ので抵抗できたはず→無罪という判断をしたようです。

恐怖心を抱かない暴力とは何なのでしょうかね…。
「以前は拒めたのだから(裁判の対象になっている性交も)拒めたはずだ」ということなのでしょうか。
それはあんまりです。

学習性無力感の状態だったのでは

確定的なことは言えませんが、この被害者は学習性無力感の状態だったのではないかと推測します。
学習性無力感とは「自分の働きかけでは事態は好転しないということ(=自己が無力であること)を学習した状態」のことです。

このような状態になってしまった場合、積極的に逃げるのはおろか、周囲に助けを求めることすら困難になります。
中2から性的虐待を受けており、それが常態化していた場合、そこから逃げるのは容易ではありません。

さらに年齢的なハードルもあります。
未成年は法律上の行為能力が無く、保護者の同意がなくアルバイトや賃貸契約などを行えません。
独り立ちできない年齢の子供が、親と対等な立場で拒否権を持っているとは思えません。

そしてこの記事では「専門学校の学費を負担させていた負い目から心理的に抵抗できない状態にあった」とあります。
大人が子供に対して、経済力を引き合いに出して虐待を強いるなど卑怯です。

また、大人と子供の体格差、男女の腕力の差など、物理的な恐怖もあるはずです。
そういった状態で親からの性交を「拒めたはず」というのは楽観的すぎるのではないでしょうか。

暴行脅迫、抵抗不能、年齢…高いハードル

また、上記の記事では弁護士の先生が法律に関する解説を行っています。
子どもの人権問題に詳しい寺町東子弁護士:「日本の刑法では不同意のセックスが処罰対象ではなく、暴行脅迫を用いて、あるいは抵抗不能の状態に乗じて性交などを行った場合に罪になる。被害者が同意していなかったということだけでは罪にならない。(中略)」
2017年の刑法改正では親から子どもなどへの性的虐待を処罰する「監護者性交等罪」も導入されましたが。
子どもの人権問題に詳しい寺町東子弁護士:「18歳未満の者に対し、監護者の影響力に乗じて、性交等を行った場合、暴行脅迫がなくても罪になる。(今回の事件の被害者は)18歳未満ではないので該当しない」
引用:yahooニュース

法律のことは詳しくないのでよくわからないのですが、
・暴行脅迫をしていないから強制性交ではない。
・抵抗可能だから準強制性交ではない(←今回の判決)
・子供が19歳だから監護者性交等罪ではない。
ということでしょうか。

これは法律の不備のように思います。

法の適用は正当なのかもしれない でも

Twitterでは、この件に関してたくさんの人が「これはおかしい」という声をあげています。
そしてそれに対して弁護士の方などが「法律に無知だ」などと否定しているのを見かけました。
とても複雑な思いです。

今回の判決は、法律の適用という観点では正当なのでしょう。
そのため裁判官個人を批判するツイートは、否定されて当然なのかもしれません。

しかし、多くの人が懸念しているのは法律の不備そのものとその社会的影響です。
法律に則った判断が市民感覚からかけ離れている場合、それは是正されるべきなのではないでしょうか。

私個人は、法律あるいは司法関係者に以下のことを望みます。
・同意の有無が争点であってほしい
・性被害者の恐怖心を理解する努力をしてほしい

まとめ

この事件の加害者が、中二から性的虐待をしているのを認めているのも腹が立ちます。
日本の性的同意年齢は13歳。
(そういえば同意の有無が犯罪の構成要件ではないのに”同意ができる年齢”という名前も違和感があります)

被害者が13歳未満であれば有罪です。
それを見越して中二からの虐待なら認めても大丈夫だと考えているように見えます。

「法律的に裁かれないからいい」という考え方は非常に幼稚だと思います。
本質的には「人を傷つけるからダメ」なはずです。

なんというか、ものすごく無力感を感じる判決でした。
いろいろ考えさせられますし、「どうにかしなければ」と焦燥感にかられるものの、一市民である自分に大したことなどできるはずもなく。

せめておかしいと思ったことは表明していきたいと思います。