性犯罪被害者を黙らせる学習性無力感

痴漢被害に遭っても多くの人は声を上げることができません。
それはなぜなのでしょうか。

「どうせ無理」学習性無力感とは

性犯罪の告発を思いとどまってしまう理由には、学習性無力感が関係していると考えられます。
学習性無力感とは、何をしてもダメということ(無力感)を学習しあきらめてしまうことです。

●学習性無力感
強制的・不可避的な不快経験やその繰り返しの結果、何をしても環境に対して影響を及ぼすことができないという誤った全般的ネガティブな感覚が生じることにより、解決への試みが放棄され「あきらめ」が支配する結果となること。
引用:心理学辞典 有斐閣

社会には、痴漢の被害に遭った女性が声を上げることを妨げる出来事があふれています。
被害者たちはその出来事から無力感を「学習」し、声を上げづらくなっていると考えられます。

痴漢の被害の告発を妨げる要因


痴漢被害の告発を妨げる要因として考えられるものを挙げていきます。

・侮辱される可能性
・暴力を受ける可能性
・迷惑だと非難される可能性
・警察の対応が協力的でない可能性
・犯人を間違える可能性

侮辱される可能性

まず、被害者は侮辱される可能性があります。

「性犯罪の被害者の容姿を侮辱し、女性の口をふさごうとする男性の存在」は告発の脅威になります。
男性の態度や言動から、女性たちはそういったことが起こりうることを普段の生活の中で学習しているのです。

痴漢被害を告発しようとしたときに、「さらに侮辱されるかもしれない」という恐怖が先立ち、告発を躊躇するのは自然な発想です。

暴力を受ける可能性

さらに侮辱にとどまらず暴力を受ける可能性もあります。
――駅で女性を盗撮している男性に注意したら、逆上され暴行を受けたという話を聞いたのですが?
勝部:はい。目の前で盗撮を始めた人を発見したので注意したんです。そしたら突然アゴを拳で殴られて、首を締められ、髪の毛を引っ張られました。首には傷跡も残っちゃいましたね。
引用:女性を盗撮してる男を注意したら、逆上され…!勝部元気さんが体験した一部始終
上記は盗撮をしている男性を注意したら暴行を受けた男性のニュースです。
男性であっても暴力を受けることがあるのであれば、体格の劣る女性はさらに危険な目にあうことが予想されます。

迷惑だと非難される可能性

また、周囲の人から迷惑がられる可能性もあります。
犯罪を告発しても周囲が加勢してくれない、むしろ迷惑だと思われるのは、告発を思いとどまらせる理由になり得ます。

警察の対応が協力的でない可能性

警察の対応が協力的でないことも大きな問題です。
警察は、「犯人が未成年なので立件できないだろう。それに電車の車内には監視カメラもないし目撃者もいないから証拠がない」と言った。私は警官に対して「なぜ警察が現場に駆けつけた時にまだそこに車内にいた目撃者達がそばにいたのに、その証人達に話をきかなかったのか」と質問したが、警官達は言葉をにごしただけだった。「警察署の署長が刑事事件にするかどうか決めるからどうなるかわからない。もし刑事事件にならなかったら、民事で告訴することは可能だが民事で訴訟しても家族から謝罪されて終わりだろう」と言われた。
引用:カナダ人女性の東京での痴漢被害と警察からのセカンドレイプ(全文の和訳)What happens when women report sexual assault in Japan?

犯人を間違える恐怖

主に冤罪を恐れるのは男性だと思われていますが、女性側にも「間違えてしまう恐怖」があります。
それは、間違えてしまった相手に申し訳ないという気持ちと、間違えてしまった場合に非難される恐怖です。

痴漢の問題を話し合っていると必ずと言って「でも冤罪だって…」と反論してくる人がいますが、これは被害者が声を上げづらくする雰囲気を作り上げています。
そして間接的に痴漢を擁護していることになるのです。

声を上げた人の勇気を無駄にしてはいけない

社会には、女性が被害を訴えることを妨げる要因がたくさん存在します。
そしてそれぞれが組み合わさって、「告発することは本人にとって大きな不利になる」という大きな社会的メッセージになります。
女性たちはそれを「学習」しているのです。

男性の中には、「もっと声を上げるべき」と軽々しく言う人がいますが、女性が被害を訴えるにはたくさんのハードルがあります。
そういったものを理解せず女性の責任にすることは、この問題の理解を遠ざけます。