「砂漠の悪魔」感想 予想外の展開

近藤史恵さんの「砂漠の悪魔」を読んでみました。
想像を超える展開です。
(多少のネタバレ含みます)

簡単なあらすじ



大学生の広太は小さな悪意から親友を死なせてしまう。平凡な大学生活から一転、極寒の北京で日本人留学生の鵜野と出会い、広大な中国西部を旅することに…。終着地のウイグル自治区で、広太は生きる意味を見いだせるのか。
引用:amazon 「BOOK」データベースより

中国の広大さを感じさせるスケール感

全体を通してスケールの大きな作品です。
登場人物たちは、北京→蘭州→酒泉→ムルウチ→カシュガル→トルファンと、中国を横断する旅に出ます。

情景が浮かぶようです。
一緒に旅をしているような気になります。
読みながら移動疲れを感じました笑。

中国の広大さと一人の人間のちっぽけさが大きく際立ちます。

主人公の変化

主人公は普通の大学生でした。
親友を疎ましく思い、ちょっとした虚栄心から親友や恋人(仮?)を傷つけてしまいます。
そして親友を自死に追いやった主人公は脅迫されて悪事に加担させられます。

ある間違いを取り繕うために大きな悪事に手を染めていくのは、主人公の「心の弱さ」の現れのように読めます。
自身の持つ罪悪感によって正しくない選択を繰り返してしまう行為は非常に人間的です。

そして主人公は「運び屋」として訪れた中国で、自分を脅迫してきた人間から逃げることを選びます。

その逃避行の中で、親友のこと、彼女のこと、親のこと、自分のアイデンティティなど、様々なことに向き合います。
ひたすら「逃げるべきか」「立ち向かうべきか」逡巡し続ける様子が差し迫っていて、胸が苦しくなるほどです。

その旅で、ウイグル人への差別問題、現地で生きる人の生活、人の死に触れることになります。
これらが主人公に影響を与えたのでしょう。

物語終盤で「砂漠の悪魔」に遭遇した主人公は、逃げることができない「ある運命」を背負うことになります。
そして「十年生き延びることができれば俺の勝ち」という目標を得ます。

それに立ち向かう主人公の意外なほどの”さわやかさ”に、主人公の「内面の変化」を感じました。

これらの主人公の変化は「成長」という表現は似つかわしくありません。
そして「絶望の境地」というのも違和感があります。
「達観」と呼ぶのも陳腐です。

様々な人や自分の「命」の”重さ”、あるいは”軽さ”を目の当たりにした主人公の心境はどんなものなのだろう、と考えさせられる作品です。

まとめ

この作品の発行は2010年ですが、ウイグルの状態について無知だった私は、「ちゃんと知らなければいけないな」と感じ反省しました。

そして近藤史恵さんの作品の幅の広さに驚きます。
是非読んでみてください。


ではまた♪