差別とは何か 法律、心理学、社会学の説明

社会には様々な差別が存在します。
しかし差別には様々な要因が複雑に絡んでおり、何が差別であるかを判断するのは非常に困難です。
まずここでは、差別の定義を簡単にまとめておきたいと思います。



法律上の解釈

憲法14条1項「法の下の平等」

憲法において、差別に関係している条文は14条1項です。

●憲法14条第一項 法の下の平等
すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

まず、「平等」というのは「機会の平等」の意味だと考えられています。
そしてこの「平等」には絶対的平等相対的平等の2通りの解釈が存在します。

絶対的平等:一律同じ扱いをすること。
相対的平等:同じ条件の人には同じ扱い、異なる条件の人には異なる扱いをすること。

今現在、「平等」は相対的平等を意味するという解釈でほぼ争いはありません。
つまり相対的平等である限り、人の扱いに差をつけること自体は許されることになります。

差別と区別の違いは「合理的な理由」の有無

では、差別と相対的平等を分ける基準はなんなのでしょうか?

それは「合理的な理由」が存在するかという点です。
差をつけることに「合理的な理由」が存在すれば相対的平等の範囲内であり、「合理的な理由」が存在しなければ差別と判断されることになります。


心理学の定義

差別とは偏見に基づく「行動」

心理学の差別の定義を知るためには、ステレオタイプ偏見という言葉の理解が必要です。
●ステレオタイプ(リップマン)
集団に対して十把一絡げ的な信念や期待を割り当てること。
否定的な内容、肯定的な内容の両方を含む。
●偏見
特定の集団に対する否定的な認知や感情のこと。

ステレオタイプは集団を一般化して決めつけることであり、偏見はステレオタイプの内、否定的な内容のものを指します。
そして差別とは行動を伴うもので、実際に特定集団に不利益を生じさせます。

●差別
特定の集団に対する偏見に裏打ちされた敵意的な行動のこと。
他の集団成員が享受して当然な権利を剥奪すること。
参考:心理学辞典 有斐閣

つまり、ステレオタイプの”否定的”な内容のものが偏見、偏見に基づいて行われる”行動”が差別ということになります。

差別の持つ「役割」

差別には、人々の欲求不満を解消するという機能があります。
スケープゴートを設定して差別させることで、本来の攻撃対象への敵意を差別対象に向けるよう仕向けることができるのです。

例えば、江戸時代に士農工商の階級において最も搾取されている農民の不満の矛先を自分たちからそらすため、為政者が被差別部落を作り差別を制度的に正当化した例が存在します。

多くの差別は複雑な歴史的・経済的な背景があり、要因は一つではありません。
社会では、人的資源(労働力など)、物質的資源(食料や物品など)、社会的な資源(地位に伴う社会的勢力や報酬など)を巡って競争が発生しており、競争の勝者は敗者を差別することによって、不平等な資源配分を正当化しているのです。


社会学の定義


差別者が明確な意図を持って差別しているかというと、そうとは限りません。
それが社会学の定義に現れています。

生活者が、あるカテゴリーの人々に対して、忌避・排除する行為の総体をいう。この場合、
①行為主体が意識的か無意識的かは問わない
②カテゴリーが実在のものか架空のものかは問わない
③行為客体が個人か集団かは問わない。
現代日本における、この種の代表的カテゴリーとして、被差別部落、障碍者、在日韓国人・朝鮮人、女性、アイヌなどがある。
引用:新社会学辞典 有斐閣

差別対象は偏見に基づく負の意味付けにより、ラベル付けされ、見下されることになります。

そして、差別の構造は単純ではありません。
差別内容としては、蔑視的対応、物的・制度的不平等があり、物的・制度的不平等が差別意識や蔑視的対応を生じる原因になる場合も多く、この両者は循環的関係にあり、また、暴力的対応がなされる場合もある。
引用:新社会学辞典 有斐閣
例えば、被差別者であるが故に教育の機会を奪われた人は、「教育水準が低い」ということでさらに蔑視される恐れがあり、そのスパイラルから抜け出すのは容易なことではありません。

まとめ

差別が存在する社会に生きる私たちは、「何が差別に当たるのか」を判断すること自体が難しいという問題があります。
何が差別であるか、そして自分が他人を差別しないためにはどうしたらいいのかを考えるのに、まずは「理解すること」が肝要だと思われます。

【参考】
心理学辞典 有斐閣
新社会学辞典 有斐閣