女性は数学が苦手?その苦手意識、スティグマのせいかも

偏見を持たれて嫌な思いをしたことはありますか?
偏見は気分を害するだけでなく、さまざまな影響をもたらします。
もしかしたら、あなたが持っている苦手意識は偏見のせいかもしれません。


偏見が苦手意識を作る スティグマとは

否定的なアイデンティティをもたらす属性」のことをスティグマといいます。
スティグマは「負の烙印」の意味をもち、もともとは古代ギリシアで奴隷や反逆者を意味するものとして体に刻印されるサインやマークのことを示していました。

スティグマを持っている人は偏見にさらされることが多く、それによって実際に成長機会を失ったり、パフォーマンスが下がったり、深刻な影響が出てしまいます。

 何がスティグマになるのか?

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実際に何がスティグマとなるのかは、時代や文化によって違います。
例えば、太っている人は自己管理能力が低いという価値観がある場所では太っていることがスティグマになりますが、太っている人は美しいという価値観の場所ではスティグマにはなりません。

代表的なスティグマとしてはこのようなものが挙げられます。

  • 太っている人は自己管理能力が低い
  • 黒人は白人よりも知的に劣る
  • 女性は数学が苦手

肥満、人種、性別などでその人の個性や能力が決まるはずがないのですが、これらの偏見は広く知れ渡っています。

スティグマがもたらす影響

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「否定的な見方をされても気にしなければいいんじゃない?」という声もあるでしょう。
しかし、スティグマは「気にしない!」と割り切れるものではなく、人の内面に深く影響を及ぼしています。

ステレオタイプ脅威

スティグマがもたらす影響の1つ目はステレオタイプ脅威です。

ステレオタイプ脅威とは、
自分がステレオタイプに関連付けて判断されてしまうかもしれないという恐れのことです(スティールとアロンソン,1995)。
このステレオタイプ脅威は、個人のパフォーマンスに影響を及ぼすことが指摘されています。

ここで「女性は数学が苦手」というステレオタイプに基づいた実験をご紹介します(スペンサー,1997)
この実験では、数学の成績が同等な男女に数学のテストを受けてもらいました。
テスト前、半数の男女に「このテストには性差がない」と伝え、もう半数には性別に関することは伝えませんでした。

その結果、「性差無し」と伝えた条件では男女の点差はありませんでしたが、もう一方の条件では女性の方が成績が低くなってしまいました。

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これを研究者たちは、性差について何も言われなかった女性はステレオタイプ脅威による不安を感じ、実際の成績が低くなったのではないかと考えました。
さらに、「性差がない」と伝えた女性は成績が上昇したことから、ステレオタイプ脅威を減らすためには、「性差がない」と改めて示す必要があることを指摘しています。

このように、ステレオタイプ脅威にさらされてしまうと、実生活でもさまざまな影響がでることが懸念されます。
  • 実際は苦手ではないのに実際のパフォーマンスを低めてしまう
  • 素質があってもその分野の選択肢を選ばなくなる
  • その分野での努力をしなくなって、本当に苦手になる

スティグマを持っている人はこのような状況に陥りやすいのです。

評価の原因の判断が曖昧になる(帰属の曖昧性)

2つめは帰属の曖昧性と呼ばれる問題です。
人は自分や他人の行動について、その行為をした人の意図や成功・失敗の因果関係を知ろうとします。

スティグマを持つ人は、他者から否定的な結果を受けても、肯定的な結果を受けても、それがステレオタイプや偏見のせいなのか、本人の資質のせいなのかを判断するのが難しくなります。

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他者は偏見を隠していたり、自分でも偏見に気づいていないことがあるため、偏見・差別を見抜くのは非常に困難です。

しかも、不当に否定的な評価を受けた時、それが差別であると100パーセント近く断定できる場合でないと、差別されたと自覚できないことを示す実験もあります(ルギエロとテイラー,1995,1997)。
日常生活の中で、自分に向けられた評価が偏見であると「断定」できる場面は ほとんどありません。

このように、スティグマを持つ人は、その分野で自分の能力を判断するのが難しくなってしまうのです。

その結果、このような影響が出やすくなります。
  • 自分の能力を査定するのが困難になり、自分の適性や方向性について判断しづらくなる
  • 自分に対する評価の性質を把握するのに、多くの認知資源を使ってしまう

スティグマかもしれないときの対策は?

このスティグマ、今まで話したようになかなか逃れられません。

スティグマによって自尊心が下がるのを防ぐためには、他者からの評価と自分の価値や自尊心を切り離して考えることなどが挙げられています(メジャーとシュナイダー,1998 クロッカーら,1998)。

要するに、スティグマにかかわる評価状況では、「この否定的な評価と私の価値は関係ない!」と思い込むことが大切です。

ただし、評価を切り離して考えるとモチベーションの維持が難しくなるという新しい問題が発生してしまいます。

このあたりが、スティグマを持つ人の生きる困難さを物語っています。

まとめ

否定的なステレオタイプに基づいて「自分はこれが苦手に違いない」と思っているものがあったら、それはスティグマによるものかもしれません。

知らず知らずのうちに自分の選択肢を狭めていたらもったいないですし、自分の適性を知ることは生きる上で重要なことです。

この記事はこの本を参考に書きました。
本にはもっと詳しく書いてありますので、気になる人はぜひ読んでみてください。


 ではまた♪