「本屋さんのダイアナ」感想 女の子の呪いを解く物語

柚木麻子さんの小説「本屋さんのダイアナ」を読んだので感想を書きます。

簡単なあらすじ



私の名は、大穴(ダイアナ)。おかしな名前も、キャバクラ勤めの母が染めた金髪も、はしばみ色の瞳も大嫌い。けれ ど、小学三年生で出会った彩子がそのすべてを褒めてくれた――。正反対の二人だったが、共通点は本が大好きなこと。地元の公立と名門私立、中学で離れても 心はひとつと信じていたのに、思いがけない別れ道が……。少女から大人に変わる十余年を描く、最強のガール・ミーツ・ガール小説。
引用:新潮社

ファンタジーのような世界観

全体を通して、ファンタジーのような浮遊感が漂う小説です。

お互いを羨む二人の少女

シングルマザーに育てられたダイアナ、裕福な家庭で育った彩子。
それぞれ閉塞感を感じていました。
それがお互いに出会うことで、人生に彩りが生まれます。

あの日を境に人生が変わった。自分が楽に呼吸できる場所をはっきりと心に思い描けるようになったのだ。p22

違う環境で育った二人が相手を大事に思い、時には羨みながら過ごす日々がとても美しく表現されています。
現実社会の話なのに、二人ともファンタジーに出てくるお姫様のようです。

お互いを思いやりながら、時には素直になれずぶつかったり。
二人で過ごした日々が、後に大きな財産になるであろうと想像できる関係性です。

そしてそれを読者の視点で疑似体験することによって、心が豊かになるような感覚があります。
子ども時代のキラキラした感じを追体験することができるお話です。

人間としての大人

この物語では、大人の存在も重要な役割を果たしています。

彩子とダイアナが仲良くなった時点で、「彩子の母親はシングルマザーに育てられたダイアナのことを嫌うのではないか」と心配していましたが、杞憂でした。

彩子の母やダイアナの母は、それぞれ個性を持った一人の人間として描かれています。
典型的な「誰かの母」という描写ではありません。

印象的だったのが、彩子の母・貴子がダイアナに語る以下のセリフです。
「私はね、そんな風に生きられなかったの。プライドが高くてそのくせ恐がりで、自分と違う個性を認めることができなかった。他人を見下さずには生きて来れなかったの。だから、本当の友達なんていたことがなかった」p105
自分の人生の後悔を子どもに伝えられる大人は多くありません。
子どもの頃にこういう大人に出会いたかったと思います。
そして自分がこういう大人になれているか、考えさせられます。

子どもと大人がまるで違う生き物のようではなく、「子どもが成長して大人になる」ということが、大人の人物像からも伝わってきます。
当たり前のことですが、忘れがちな視点です。

無思考に陥ったり偏見を持ったりせずに、大人が子どもときちんと向き合っているということが、この物語のキレイさをさらに引き立てているように思います。

呪いに打ち勝つ物語

この話は、二人が自らにかけた呪いを解いて成長していく物語です。

ダイアナは高校卒業後、一歩一歩着実に自分の夢の実現のために進み始めます。
自分の境遇に負けず、呪いを解いていきます。

読み進めながら、ダイアナの母・ティアラの願いを思い出して胸が熱くなりました。
「でも…、あの子にはさ、はしっこい目と頭と頑丈な足で、自分を信じて生きていってほしいんだ。誰かに何かを与えてもらうのを待つんじゃなく、欲しいものは自分で掴んで欲しいんだ」p156
きちんと伝えたいことは伝わっていたようです。

一方、彩子は進学した名門大学で、「ある出来事」に襲われます。

このシーン、ちょっとしんどかったです。
読みながらこの展開はやめてほしいと思いました。

その出来事が彩子に大きな影響を及ぼします。
それを「些細なこと」にするべく彩子がとった行動は、精神をすり減らすだけの虚しい日々でした。

自分が生きてきた世界が温室だったことや、両親はいざというとき守る方法を教えてくれなかったことが世界への不信になっていきます。
そして彩子は自暴自棄になっていきます。

その描写はとても胸が痛みました。

辛さも、それを隠そうとする気持ちも、防衛のためにそうしてしまうのが仕方ないということも分かる。
理解もできるし共感もできる。

でも、「それはあなたを幸せにしないんだよ」と彩子に語り掛けたくなるような衝動にかられます。
(読者として)彩子の幼少期を知っている分、彩子の変化がとてつもなく寂しく感じました。

しかし、そんな彩子を変えるきっかけになったのもダイアナでした。
先に呪いを解いたダイアナを見て、彩子も勇気を出します。
ダイアナは彩子の良心だったのでしょう。

二人は一緒にいなくても影響を与える、不思議な絆で結ばれています。
彩子が呪いを解く方法はきっと本人も痛みを伴うものだったと思いますが、大きな大きな一歩でした。

まとめ

多彩な感情表現が随所にちりばめられていて、とてもキレイな話だと思います。
ヒリヒリしたり、じーんとしたり、心に訴えかけてくるものがあります。
辛いシーンもありましたが、きれいに着地しました。

誰かの「呪い」を解くヒントがあるかもしれない作品です。
図書館で借りて読みましたが、買おうと思います。
表紙もかわいいです。

是非読んでみてください。