しかしそれを言ってもあまり意味がありません。
そこには逃げられない理由があるのです。
無気力の影響
「何もする気が起きない」
「何をしても無駄だと感じてしまう」
このような状態に陥ってしまうことは珍しいことではありません。
誰しも無気力になる時があります。
しかし、無気力な状態によってコントロール感を失ってしまうと、深刻な影響がでることがあります。
学習性無力感 セリグマンらの実験
セリグマンとマイヤーという研究者が犬を対象に実験を行いました(Seligman & Maier,1967)。この実験ではまず、犬たちはプレテストのために3つの群に分けられました。
プレテストは、電気ショックに対するコントロール感を学習するためのものです。
(現代では倫理的な問題がありますが、かつて電気ショックは実験の手段として認められていました。)
①統制可能群
電気ショックを与えられるが、鼻でボタンを押すことで止めることができる。
②統制不可能群
電気ショックを与えられ、それを止めることができない。
③対照群
電気ショックなし。比較のために設定された群。
電気ショックを与えられるが、鼻でボタンを押すことで止めることができる。
②統制不可能群
電気ショックを与えられ、それを止めることができない。
③対照群
電気ショックなし。比較のために設定された群。
そして次に本題のテストを行います。
このテストでは、「電気ショックが与えられたら仕切りの向こう側に逃げる」という課題を犬に学習してもらいます。
しかし、①と③の犬たちが簡単に逃げる行動を学習したにもかかわらず、②の犬だけ学習することができませんでした。
②の犬はその場に座り込み、電気ショックにじっと耐えていたというのです。
②の犬は「電気ショックから逃れることができない」ということをプレテストで学習し、無気力になっていたと言えます。
これと同様の現象は人間を対象にした実験でも確認されました。
これらのことを、セリグマン(Seligman,1975)は学習性無力感と呼びました。
●学習性無力感
コントロール不可能な状況に遭遇すると、何をしても結果はコントロールできないという「無力感」を人は感じるようになり、その結果、動機づけの障害(無気力)、認知的障害(学習能力の低下)、感情的障害(抑うつ感情)が生じる。引用:社会心理学事典
コントロール不可能な状況に遭遇すると、何をしても結果はコントロールできないという「無力感」を人は感じるようになり、その結果、動機づけの障害(無気力)、認知的障害(学習能力の低下)、感情的障害(抑うつ感情)が生じる。引用:社会心理学事典
この学習性無力感によって、食欲・性欲の減退、潰瘍の形成や体重の減少、脳内の化学物質の変化など、生理的な影響があらわれることもあります。
学習性無力感の個人差
研究が進むにつれ、すべての人が同じように「無力感」を感じるわけではないことが明らかになってきました。この個人差をエイブラムソンらは「原因帰属」の観点で説明しています(Abramson et al.,1978)。
彼らの理論では、ある状況に遭遇してコントロールできないことに気が付くと、人は「なぜコントロールできないのか」と原因を考えます。
これが原因帰属です。
この原因は3つの次元から検討されます。
①内在性:その原因は自分の内部にあるか、外部にあるか
②安定性:その原因は安定的なものか、一時的なものか
③全般性:その原因は全般的なものか、特殊なものか
②安定性:その原因は安定的なものか、一時的なものか
③全般性:その原因は全般的なものか、特殊なものか
特に安定的で全般的な原因(常に、どこでもそれが起こってしまうということ)のせいだと考えると、無力感につながりやすいといいます。
反対に考えると、その原因は一時的なものであり、今回に限った特殊なものだと考えることができれば、無力感につながらない可能性があります。
まとめ
最初に挙げた例ですが、ブラック企業に勤めている人、毒親に管理されている人などは「逃げられない」ということを学習し、行動ができない状態になっている可能性があります。客観的に見れば「逃げればいい」と思うような状況でも、本人にとってそう思えない場合があるということです。
また、コントロール感を失った状態は、抑うつ症状と類似しています。
無理せず専門家に相談し、「その困難は逃れられる/逃れてもいい」という認知を形成していくことが大切だと考えます。
【参考】
・社会心理学事典 丸善株式会社
・心理学辞典 有斐閣