それは女性の能力が劣っているからではありません。
そこには女性を男性と同等に扱わない環境があると考えるのが妥当でしょう。
女性の「ガラスの天井」
女性には「ガラスの天井」があると指摘されています。
組織内で昇進に値する人材が、性別や人種などを理由に低い地位に甘んじることを強いられている不当な状態を、キャリアアップを阻む“見えない天井”になぞらえた比喩表現です。もっぱら女性の能力開発を妨げ、企業における上級管理職への昇進や意思決定の場への登用を阻害する要因について用いられることが多く、ガラスの天井の解消を図ることが、職場における男女平等参画を実現する上で重要な課題となっています。この「ガラスの天井」の正体は何なのでしょうか。
引用:コトバンク
その理解につながる無意識のバイアスの例をご紹介します。
他者からの無意識の差別
人は意識せずとも偏見に基づいた判断をしてしまいます。合理性や客観性が求められるビジネスシーンにおいても、それは例外ではありません。
2003年に、コロンビア大学経営大学院とニューヨーク大学の教授が共同で、ある実験を行った。ハイディ・ロイゼンという実在の成功した女性起業家のケーススタディーを用い、学生のうち半分には「ハイディ(女性)」のまま、残り半分には人名を「ハワード(男性)」に変えて、全く同じ内容を読ませた。
読んだ後、学生にアンケートを取った。すると男女の学生どちらも、両方のケースに対して「立派な業績である」と評価したが、「ではこの人を好きか」という質問に対しては、ハワードの方が圧倒的に好感度は高かった。全く同じ内容であるにもかかわらず、ハイディに対してだけ「自己中心的である」といった印象で、「自分の部下としては雇いたくない」といった回答が目立ったという。
繰り返すが、男女どちらの学生からも同じ傾向なのである。「社会的に成功する」ことが、男性では好感度をプラスする方向に働くのに、女性ではマイナスになってしまうのだ。
引用:シェリル・サンドバーグの覚悟とデータ業界での女性の躍進 (2ページ目):日経ビジネスオンライン
この実験では、 男性でも女性でも、社会的に成功した女性に対してマイナスイメージをもつ傾向があることが示唆されました。
同様に、母親という属性が能力の評価にマイナスの影響を与えることも指摘されています。
私は職場において、母親であることがどのような不利益に繋がるかを調べました。賃金の差を示す資料によれば、母親たちは子供のいない女性に比べて、子供1人あたり5〜7パーセントのペナルティを受けているんです。
(中略)
母親は仕事に対する能力が低く、会社への貢献度が低いというステレオタイプを持たれますが、父親は能力も貢献度も高いとみなされるのです。引用:ログミー 実力主義を掲げる組織ほど気をつけるべき?無意識のバイアスをあぶり出す実験結果を紹介
これらは、個人を能力ではなく属性で評価してしまっていることの証左です。
女性には、「女性だから」「母だから」という理由で評価が下げられてしまうという理不尽な障壁があります。
自覚的にこの評価のバイアスを取り払うのは難しいと考えられます。
ピグマリオン効果
さらに、指導する人間が差別意識を持っていると、指導される側の人間のパフォーマンスが変わってくる可能性があります。
これをピグマリオン効果といいます。
これをピグマリオン効果といいます。
●ピグマリオン効果
指導者が学習者に対して期待を持って接することによって、学習者も期待に応えようとして成績があがる現象をいう。(中略)ちなみにピグマリオンとは、ギリシャ神話に登場する彫刻家の名前。彼は自分が彫った彫像に恋をし、ついには神がその彫像に命を吹き込むという話が由来になっている。
引用:ナビゲート
アメリカの教育心理学者ローゼンタールらはピグマリオン効果について調べるため、子供を対象に実験を行いました。
この実験は子供に知能テストをさせた後、その結果とは関係なくランダムに「将来成績が伸びるであろう生徒の名前」を教師に告げ、その後の成績の伸びを調べるというものです。
そして1年後、「成績が伸びる」と告げられた生徒達の成績が明らかに伸びていたという結果が得られました。
この期待効果は、教師の行動を無意識のうちに変化させていることが分かりました。
例えば、特定の子供にヒントを与えたり、質問を言い換えたり、回答を待ったりする行動を行っていたのです。
この効果により、ビジネスの場面においても、上司や評価者が男性に期待をし、女性に期待をしないことによって、男女の差が開く可能性があります。
女性に特有の困難がある可能性も
その他、女性に特有の困難の存在があります。
こちらの記事が象徴的です。
こちらの記事が象徴的です。
一部を抜粋します。
そこで我々は、実験をしてみることにしました。2週間お互いの名前を交換する、という実験です。私はニコルのメールアドレスを使い、ニコルは私のメールアドレスを使う。どうなったと思いますか?
私にとっては悪夢のような2週間になりました。質問や提案はことごとく疑問視され、寝ながらだって対応できるようなクライアントでさえも、見下ろすような態度をとってきました。中には、私が独身かどうか聞いてきた人もいました。
引用:HUFFPOST女性の名前で仕事のメールを送ってみたら......見えない差別に気づいたある男性の話
女性の名前で対応すると、男性の名前で対応した時に比べ、横柄な態度のクライアントが多かったというのです。
女性軽視が浸透した社会では、女性は男性よりも、他者とのコミュニケーションに多くの労力を割かなければなりません。
細やかな配慮やセクハラの受け流しなどが「女のたしなみ」と捉えられていることからも明らかです。
しかし、これらは精神的な苦痛や認知コストの浪費が伴います。
このような目に見えない仕事が、本来の業務の妨げになることが想定されます。
こういった女性ならではの困難の存在に気づいていない場合、上司は女性部下の能力を低く見積もってしまう恐れがあります。
まとめ
こういったバイアスの難しいところは、差別している本人が無自覚であるという点です。自覚していないからこそ、男性だけが出世する社会を平等な結果だと考え、さらに無自覚な女性差別を助長していくというループに陥ってしまいます。
このような無意識の差別を防ぐには、まず無意識の差別の存在を認め、そのようなことが起こらないような「仕組み」を整備することが必要です。
ある実験では、オーケストラの演奏者を採用するオーディションで、演奏者の性別が分からないように幕を設けて演奏だけで評価を行ったところ、審査に通過した女性の割合が50%を超えたという結果が示されました(*1)。
(70~80年代のアメリカのオーケストラの女性比率は5%程度)
無意識のバイアスの影響を取り除くためには、この「幕」のような、性別を隠す仕組みが必要です。
現に欧米では、雇用で差別をしないよう、履歴書に年齢も性別も記載する必要はありません。
日本にもこのような仕組みが必要だと考えます。
ではまた♫
【参考】
*1:ログミーオーケストラの採用試験、演奏だけで判断すると何が変わる?自分では気づけない先入観の罠
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