太田愛「天上の葦」は全ての日本人が読むべき一冊

太田愛「天上の葦」
この小説はすごいです。
本当にすごいです。

ネタばれにならない程度に感想を書きたいと思います。

天上の葦 ざっくりとしたあらすじ 


渋谷駅のスクランブル交差点の真ん中で「何か」を指して亡くなった老人。
その姿がテレビの中継に映り、老人の鬼気迫る表情が話題になっていた。

そんな中、興信所を営む鑓水はある元政治家から依頼を受ける。
それは「あの老人が何を指していたのか調べてほしい」というものだった。

一方、鑓水の友人である停職中の刑事・相馬はある公安警察官の捜索を命じられる。

この二つの出来事がやがて一つにつながり、大きな陰謀が姿を現す…

太田愛作品には「権力」が描かれている

太田愛さんはドラマ「相棒」などの脚本を務めた方で、小説作品は「犯罪者」「幻夏」に続き、この「天上の葦」が三作目です。(2018年10月現在)

太田愛さんの3作品に共通しているのは「権力」と「市民」の構図が存在するということです。
より正確に言うと「権力によって無辜の市民が犠牲になる」という軸がいずれの作品にも存在します。

「犯罪者」は大企業の隠蔽工作が多くの人を不幸に陥れていく様をスリリングに描き、「幻夏」は冤罪によってある家族の本来あったはずの人生、子供たちの無邪気な少年時代が奪われていく様を感傷的に描いていて、どちらも読みごたえがあります。

そしてこの「天上の葦」で描かれているのは、権力が暴走した最大の悲劇「戦争」です。

権力の巨大さや個人の無力さ、日本が過去に経験した出来事の悲惨さが生々しく描写されており、心がざわつくのを感じながら「目を背けたくなる内容だけれど読まずにいられない」という切迫感をもたらす小説です。

これは今の私たちが読むべき小説

この「天上の葦」はモリカケ問題の前に執筆されているにも関わらず、「忖度」の場面が出てくることで「予言的な作品だ」と話題になりました。

ただ、実際のところ「予言的」というより「社会を反映している」といった方が正確であるように思います。

印象的だったのはこのシーン。
作中、戦争を経験した老人が、戦争に向かう日本には”小さな火種”があったと話す場面があります。
「だんだんものが言えんようになっていけば、あっと言うまに当たり前のことも口に出せんようになる。必ずまたあの頃の自分みたいな人間が次から次、湧いてくる。そう思うと、ぞっとした。それだけは許してはいかんと思うた。」第14章 

「小さい火のうちに。(中略)闘えるんは小さい火のうちだけじゃ。山波さんの話を聞いて、権力がまた人にものを言わせんようにし始めとると思うた。そういう時は必ず、間違うた方へ行きよる時じゃ。今、闘わんと、これから大人になる子らがまた責任を取らされることになる。」第14章 

これは、本当に過去のことなのだけなのでしょうか?
今、現代に生きる私たちにも無関係なはずがありません。

小さな火種、小さな違和感がやがて大きな過ちにつながる。
それを国民は見逃してはいけない。

これは、今の私たちが読むべき小説だと思います。

まとめ

物語の最後の最後で、渋谷で亡くなった老人が「何を」指さしていたのかが判明します。
その「何か」のために、私たちはどうしていくべきなのでしょうか。
是非読んでみてください。